DAVID BOWIE / OUTSIDE BUDOKAN 1996 【2CD】
DAVID BOWIE / OUTSIDE BUDOKAN 1996 【2CD】
販売価格: 4,500円(税込)
在庫あり
商品詳細
デヴィッド・ボウイは日本と密接な繋がりがある。大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」に出演したのはもちろん、早くから日本の文化に造詣を持ち、1973年に来日した際にはすぐさま山本寛斎に会いに行き、ステージ衣装やその後印象的な写真に残っている奇抜な衣装のデザインを依頼している。また有名なボウイの写真の多くは、『ヒーローズ』のジャケット写真を含め日本人写真家である鋤田正義の手によるものである。ボウイの繊細な芸術性は日本の悠久の歴史に裏打ちされた趣を重んずる部分に響いたのではと思う。その他、日本のCMにも数多く出演し、日本との繋がりは枚挙に暇がない。ボウイにとって日本は、一緒に仕事をした人たち、その中のいくつかはボウイのキャリアにおいても非常に重要な役割を果たしている人たちの母国でもある。当然、来日公演も多い。
1995年リリースのアルバム『アウトサイド』はあらゆる意味でボウイにとって転換となる作品であった。前作『ブラックタイ・ホワイトノイズ』が等身大の自身の事を歌った現実路線であったのに対し、このアルバムではプロデューサーに再びブライアン・イーノを招聘し、70年代後期の重苦しい世界観を非現実のフィクションをベースに表現するという、以前のようなキャラクターを演じる手法を採用している点にまず特長がある。『アウトサイド』は猟奇事件をテーマにし、そのおどろおどろしい世界観は、シングル「ハーツ・フィルシー・レッスン」がサイコホラー映画『セブン』のテーマ曲となったくらいである。難解で陰鬱な楽曲群はセールス的には評価されなかったが、このような実験的な作風にこそボウイの真価が問われるもので、停滞を望まないボウイのファンにとっては重要な作品の一つと言えるだろう。
この実験的なアルバムのリリースに伴い、約半年に渡って北米と欧州をまわるツアーが行なわれた。ティン・マシーン解散後の初のソロ・ツアーとあって、ボウイがツアーにかける情熱は確かなものであったことだろう。ナイン・インチ・ネイルズとの共演でも話題となった。1990年のサウンド・アンド・ヴィジョン・ツアーでは過去の楽曲群は今後封印すると語っていたが、リハーサルでは過去の曲も含め数多くの楽曲が演奏されている。ボウイは過去の曲も新しいアレンジで演奏することで、また久しぶりに演奏することで、このツアーにフィットするような新しい息吹が吹き込まれたと述べている。いずれにせよ新旧織り交ぜたセットリストは歴代のツアーの中でも特異なもので、かつアレンジを大胆に変えているのもこのツアーの特長であると言えるだろう。1995年9月から始まったアウトサイド・ツアーは、翌年1996年2月をもって一旦終了する。この半年間に68公演をこなしている。しかしツアーはこれで終わりではなかった。
1996年2月にツアーを一旦終えたボウイだったが、数か月の休暇の後、再びツアーに出る事になる。ツアー・タイトルを「OUTSIDE SUMMER FESTIVALS TOUR」と変え、わずか2か月であるが、前回のツアーで回らなかった都市を中心に27公演のツアーを敢行するのであった。そのオープニングとなったのが、本作で聴くことの出来る日本公演である。日本では東名阪のみならず、広島、小倉、福岡を含む全7公演。このツアー唯一のアジア圏でのコンサートである。本作はその初日1996年6月4日の日本武道館公演を収録している。
アウトサイド・ツアーに続く、アウトサイド・サマー・フェスティバル・ツアーは、前述の通り日本から始まった。セットリストはニューアルバム『アウトサイド』から多く組み込まれているのは当然として、新旧織り交ぜたものとなっている。ここには「スペース・オディティ」もなければ「ジギースターダスト」もない。全く新しいボウイのステージがここにあるのみである。オープニングは静かに始まるニューアルバムの「The Motel」である。いきなり盛り上げるのではなく、最初にツアーのテーマを提示するという手法であろう。そして2曲目は懐かしい「怒りをこめてふり返れ」である。オリジナルよりかなりハードなアレンジとなっており、特に唸りまくるギターがまるでハードロックである。このギターを弾いているのはティン・マシーンのリーヴス・ガブレルス。なるほど、華美な装飾を削ぎ落としキーボードレスのロックバンドを志向したティン・マシーンのテイストがステージ全体を覆っているのは、このリーヴス・ガブレルスのギターに依るところが大きい。ドラマーの薬物問題でバンドは消滅し、一般的に評価が低いティン・マシーンだが、ボウイの目指した音が、形を変え、時を経て、このツアーで実現されているのではないだろうか。
観客を飽きさせないためか、新曲と古い曲が交互に折り重なるようにステージは進んでいく。4曲目「スケアリー・モンスターズ」はアップ・テンポにアレンジしなおされている。元々アルバム『スケアリー・モンスターズ』は硬質なギターがメインとなっているアルバムだったので、このツアー・バンドのスタイルにマッチする選曲と言えるだろう。そして驚くのは「Baby Universal」が演奏されていることである。ティン・マシーンのセカンド・アルバムの冒頭を飾るこの曲をソロのコンサートで演奏するとは驚きである。ボウイとしては黒歴史ではなく、自分のプロジェクトの一環としてティン・マシーンを捉えているということの証明に他ならない。
「アラジン・セイン」はほぼオリジナルと同じアレンジで演奏されている。しかし逆に、次の「アンディ・ウォーホール」は大幅にアレンジを変えて演奏される。70年代初期の曲だけにそのまま演奏するのははばかられたのだろう。元々のアコースティックの曲を、ここではハードなロックに変貌させている。イントロを聴いただけでは何の曲かわからず、ボウイの歌唱はかろうじてメロディを維持させているものの、ギターを全面に押し出し、歪ませた音色が混沌とした雰囲気を出している。またリズムを細かく刻むパーカッションも印象的である。それは「世界を売った男」も同様で、かなり大幅なアレンジの変更が施されている。ほとんどボウイのアカペラで、間奏で初めてあの印象的なリフが登場する。「ダイアモンドの犬」も、ところどころドラムがブレイクを入れるなどオリジナルの雰囲気を良い意味でぶち壊している。「壊れた鏡」に至っては終始ギターが黙っておらず、まるで曲の間ずっとソロを弾いているかのような活躍ぶりである。そして個人的に注目は「Jump They Say」である。1993年リリースの『ブラックタイ・ホワイトノイズ』の第一弾シングルとしてリリースされた同曲は、当時ツアーが行なわれなかったこともあって、初めてのステージでの披露となる。途中ギターが、不協和音を発するピアノと同期する形でソロをとるアレンジとなっている。そしてコンサートは、ボウイの代表曲であることに異論はないであろう「ヒーローズ」で締めくくられる。ここでも縦横無尽にギターが歌いまくり、まるでヴォーカルをとっているかのようだ。思えばヒーローズは不思議な曲で、同じギター・フレーズが繰り返される中、メロディは歌唱でのみ追っていて、バックは全く別のものとして存在、それでも違和感なく融合しているという、他に類を見ない曲である。だからこそ、どのようなアレンジを施しても、曲の良さは隠し切れず、それが名曲たる所以ともなっている。
アンコールは3曲である。どれも皆、お馴染みの曲であるが、「White Light White Heat」は、かつてはステージで盛り上がる曲であったが、ここではボウイは声を抑えて淡々と、あえて起伏をつけずシンプルに歌い上げている。そして最後の2曲がすごい。もうアンコールのこの2曲だけで、このコンサートが全てと言っても過言ではない。まず「月世界の白昼夢」である。アレンジはほぼオリジナルと同じながら、印象ががらりと異なるのは、やはりギターがかなりハードな音色を畳みかけるように発しているからだろう。オリジナルにあった宇宙的な響きはなく、ただハードな混沌世界があるのみである。間奏に入る前にブレイクを作り、運指を最小限に抑えた伸びのあるギターソロが、その混沌とした雰囲気をさらに強調している。この濃密な雰囲気は何物にも代えがたい。あえてアンコールにこの曲を選んだのは、後半に重きを置く曲構成が、このバンドで演奏することにより、より重厚なものとなる確信があったのだろう。そしてその確信が見事に実現されているのである。
そしてコンサートのラストは、これ以上ないくらい感動的な「すべての若き野郎ども」である。艶やかなあのギター・フレーズが武道館いっぱいに広がり、聴衆は長いコンサートの終焉を大団円で迎えることになる。音だけからは判断できないが、武道館の照明が明るく客席を照らし、幸福に満ちた表情がそこかしこに見られたのではないだろうか。揺れるようなメロディに乗せて徐々に曲が盛り上がっていく中、ボウイはこの時だけ古い昔に戻ったかのような錯覚に陥る。今さらだが、何より曲が素晴らしい。そしてボウイの独特の声がこの切ないメロディに調和し、聴いていて胸がいっぱいになる。泣けてくる。今までコンサートを通して終始ハードに攻めてきたのが、ここで最後にフッと息を抜くかのような雰囲気で、この「すべての若き野郎ども」で全てが救われた気分になれる。コンサートのエンディングとして最高のもののひとつであろう。
この武道館公演を聴いて感じるのは、何よりバンドの強力さである。贅肉を削ぎ落とし最低限の編成で、それでいて濃密な空間を構築しているステージは、まさに圧巻である。メロディをあえて起伏なきものにしてリズム隊を大きく全面に出している。それを意図しているのは冒頭からブンブン唸るベースを聴くだけでわかるというもの。さらにその上をギターが縦横無尽に弾きまくる。時に歪ませ、時に生音に近く、まるでハードロックかヘビメタのような印象すら受ける。かつて80年代のボウイは、時代ということもあろうが、過度にシンセなどに頼った音作りをしていたが、その反動か90年代以降はシンブルな音楽性を志向するようになっている。そして、それを体現しようとしたのがティン・マシーンのプロジェクトであったと言える。ティン・マシーンは商業的にも成功とはいいがたく、また音楽的にも消化不良で終わった感がある。それをこのツアーでリベンジしたと言えるのではないだろうか。新旧織り交ぜた楽曲群、古い曲も新しいアレンジで生まれ変わり、リアルタイムのものとして聴衆に提示している。1996年という時代にボウイが求めていた音楽の形が見事に結実している、まさにこれぞボウイという素晴らしいステージである。
ツアー初日1996年6月4日武道館公演を高音質の初登場音源で完全収録。美しいピクチャーディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。
BUDOKAN HALL TOKYO, JAPAN JUNE 4, 1996
DISC ONE
01. The Motel
02. Look Back In anger
03. The Hearts Filthy Lesson
04. Scary Monsters
05. I Have Not Been To Oxford Town
06. Baby Universal
07. Outside
08. Aladdin Sane
09. Andy Warhol
10. Voyeur of Utter Destruction
11. The Man Who Sold the World
12. A Small Plot Of Land
13. Strangers When We Meet
DISC TWO
01. Diamond Dogs
02. Hallo Spaceboy
03. Breaking Glass
04. We Prick You
05. Jump They Say
06. Lust For Life
07. Teenage Wildlife
08. Under Pressure
09. Heroes
10. White Light White Heat
11. Moonage Daydream
12. All The Young Dudes
1995年リリースのアルバム『アウトサイド』はあらゆる意味でボウイにとって転換となる作品であった。前作『ブラックタイ・ホワイトノイズ』が等身大の自身の事を歌った現実路線であったのに対し、このアルバムではプロデューサーに再びブライアン・イーノを招聘し、70年代後期の重苦しい世界観を非現実のフィクションをベースに表現するという、以前のようなキャラクターを演じる手法を採用している点にまず特長がある。『アウトサイド』は猟奇事件をテーマにし、そのおどろおどろしい世界観は、シングル「ハーツ・フィルシー・レッスン」がサイコホラー映画『セブン』のテーマ曲となったくらいである。難解で陰鬱な楽曲群はセールス的には評価されなかったが、このような実験的な作風にこそボウイの真価が問われるもので、停滞を望まないボウイのファンにとっては重要な作品の一つと言えるだろう。
この実験的なアルバムのリリースに伴い、約半年に渡って北米と欧州をまわるツアーが行なわれた。ティン・マシーン解散後の初のソロ・ツアーとあって、ボウイがツアーにかける情熱は確かなものであったことだろう。ナイン・インチ・ネイルズとの共演でも話題となった。1990年のサウンド・アンド・ヴィジョン・ツアーでは過去の楽曲群は今後封印すると語っていたが、リハーサルでは過去の曲も含め数多くの楽曲が演奏されている。ボウイは過去の曲も新しいアレンジで演奏することで、また久しぶりに演奏することで、このツアーにフィットするような新しい息吹が吹き込まれたと述べている。いずれにせよ新旧織り交ぜたセットリストは歴代のツアーの中でも特異なもので、かつアレンジを大胆に変えているのもこのツアーの特長であると言えるだろう。1995年9月から始まったアウトサイド・ツアーは、翌年1996年2月をもって一旦終了する。この半年間に68公演をこなしている。しかしツアーはこれで終わりではなかった。
1996年2月にツアーを一旦終えたボウイだったが、数か月の休暇の後、再びツアーに出る事になる。ツアー・タイトルを「OUTSIDE SUMMER FESTIVALS TOUR」と変え、わずか2か月であるが、前回のツアーで回らなかった都市を中心に27公演のツアーを敢行するのであった。そのオープニングとなったのが、本作で聴くことの出来る日本公演である。日本では東名阪のみならず、広島、小倉、福岡を含む全7公演。このツアー唯一のアジア圏でのコンサートである。本作はその初日1996年6月4日の日本武道館公演を収録している。
アウトサイド・ツアーに続く、アウトサイド・サマー・フェスティバル・ツアーは、前述の通り日本から始まった。セットリストはニューアルバム『アウトサイド』から多く組み込まれているのは当然として、新旧織り交ぜたものとなっている。ここには「スペース・オディティ」もなければ「ジギースターダスト」もない。全く新しいボウイのステージがここにあるのみである。オープニングは静かに始まるニューアルバムの「The Motel」である。いきなり盛り上げるのではなく、最初にツアーのテーマを提示するという手法であろう。そして2曲目は懐かしい「怒りをこめてふり返れ」である。オリジナルよりかなりハードなアレンジとなっており、特に唸りまくるギターがまるでハードロックである。このギターを弾いているのはティン・マシーンのリーヴス・ガブレルス。なるほど、華美な装飾を削ぎ落としキーボードレスのロックバンドを志向したティン・マシーンのテイストがステージ全体を覆っているのは、このリーヴス・ガブレルスのギターに依るところが大きい。ドラマーの薬物問題でバンドは消滅し、一般的に評価が低いティン・マシーンだが、ボウイの目指した音が、形を変え、時を経て、このツアーで実現されているのではないだろうか。
観客を飽きさせないためか、新曲と古い曲が交互に折り重なるようにステージは進んでいく。4曲目「スケアリー・モンスターズ」はアップ・テンポにアレンジしなおされている。元々アルバム『スケアリー・モンスターズ』は硬質なギターがメインとなっているアルバムだったので、このツアー・バンドのスタイルにマッチする選曲と言えるだろう。そして驚くのは「Baby Universal」が演奏されていることである。ティン・マシーンのセカンド・アルバムの冒頭を飾るこの曲をソロのコンサートで演奏するとは驚きである。ボウイとしては黒歴史ではなく、自分のプロジェクトの一環としてティン・マシーンを捉えているということの証明に他ならない。
「アラジン・セイン」はほぼオリジナルと同じアレンジで演奏されている。しかし逆に、次の「アンディ・ウォーホール」は大幅にアレンジを変えて演奏される。70年代初期の曲だけにそのまま演奏するのははばかられたのだろう。元々のアコースティックの曲を、ここではハードなロックに変貌させている。イントロを聴いただけでは何の曲かわからず、ボウイの歌唱はかろうじてメロディを維持させているものの、ギターを全面に押し出し、歪ませた音色が混沌とした雰囲気を出している。またリズムを細かく刻むパーカッションも印象的である。それは「世界を売った男」も同様で、かなり大幅なアレンジの変更が施されている。ほとんどボウイのアカペラで、間奏で初めてあの印象的なリフが登場する。「ダイアモンドの犬」も、ところどころドラムがブレイクを入れるなどオリジナルの雰囲気を良い意味でぶち壊している。「壊れた鏡」に至っては終始ギターが黙っておらず、まるで曲の間ずっとソロを弾いているかのような活躍ぶりである。そして個人的に注目は「Jump They Say」である。1993年リリースの『ブラックタイ・ホワイトノイズ』の第一弾シングルとしてリリースされた同曲は、当時ツアーが行なわれなかったこともあって、初めてのステージでの披露となる。途中ギターが、不協和音を発するピアノと同期する形でソロをとるアレンジとなっている。そしてコンサートは、ボウイの代表曲であることに異論はないであろう「ヒーローズ」で締めくくられる。ここでも縦横無尽にギターが歌いまくり、まるでヴォーカルをとっているかのようだ。思えばヒーローズは不思議な曲で、同じギター・フレーズが繰り返される中、メロディは歌唱でのみ追っていて、バックは全く別のものとして存在、それでも違和感なく融合しているという、他に類を見ない曲である。だからこそ、どのようなアレンジを施しても、曲の良さは隠し切れず、それが名曲たる所以ともなっている。
アンコールは3曲である。どれも皆、お馴染みの曲であるが、「White Light White Heat」は、かつてはステージで盛り上がる曲であったが、ここではボウイは声を抑えて淡々と、あえて起伏をつけずシンプルに歌い上げている。そして最後の2曲がすごい。もうアンコールのこの2曲だけで、このコンサートが全てと言っても過言ではない。まず「月世界の白昼夢」である。アレンジはほぼオリジナルと同じながら、印象ががらりと異なるのは、やはりギターがかなりハードな音色を畳みかけるように発しているからだろう。オリジナルにあった宇宙的な響きはなく、ただハードな混沌世界があるのみである。間奏に入る前にブレイクを作り、運指を最小限に抑えた伸びのあるギターソロが、その混沌とした雰囲気をさらに強調している。この濃密な雰囲気は何物にも代えがたい。あえてアンコールにこの曲を選んだのは、後半に重きを置く曲構成が、このバンドで演奏することにより、より重厚なものとなる確信があったのだろう。そしてその確信が見事に実現されているのである。
そしてコンサートのラストは、これ以上ないくらい感動的な「すべての若き野郎ども」である。艶やかなあのギター・フレーズが武道館いっぱいに広がり、聴衆は長いコンサートの終焉を大団円で迎えることになる。音だけからは判断できないが、武道館の照明が明るく客席を照らし、幸福に満ちた表情がそこかしこに見られたのではないだろうか。揺れるようなメロディに乗せて徐々に曲が盛り上がっていく中、ボウイはこの時だけ古い昔に戻ったかのような錯覚に陥る。今さらだが、何より曲が素晴らしい。そしてボウイの独特の声がこの切ないメロディに調和し、聴いていて胸がいっぱいになる。泣けてくる。今までコンサートを通して終始ハードに攻めてきたのが、ここで最後にフッと息を抜くかのような雰囲気で、この「すべての若き野郎ども」で全てが救われた気分になれる。コンサートのエンディングとして最高のもののひとつであろう。
この武道館公演を聴いて感じるのは、何よりバンドの強力さである。贅肉を削ぎ落とし最低限の編成で、それでいて濃密な空間を構築しているステージは、まさに圧巻である。メロディをあえて起伏なきものにしてリズム隊を大きく全面に出している。それを意図しているのは冒頭からブンブン唸るベースを聴くだけでわかるというもの。さらにその上をギターが縦横無尽に弾きまくる。時に歪ませ、時に生音に近く、まるでハードロックかヘビメタのような印象すら受ける。かつて80年代のボウイは、時代ということもあろうが、過度にシンセなどに頼った音作りをしていたが、その反動か90年代以降はシンブルな音楽性を志向するようになっている。そして、それを体現しようとしたのがティン・マシーンのプロジェクトであったと言える。ティン・マシーンは商業的にも成功とはいいがたく、また音楽的にも消化不良で終わった感がある。それをこのツアーでリベンジしたと言えるのではないだろうか。新旧織り交ぜた楽曲群、古い曲も新しいアレンジで生まれ変わり、リアルタイムのものとして聴衆に提示している。1996年という時代にボウイが求めていた音楽の形が見事に結実している、まさにこれぞボウイという素晴らしいステージである。
ツアー初日1996年6月4日武道館公演を高音質の初登場音源で完全収録。美しいピクチャーディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。
BUDOKAN HALL TOKYO, JAPAN JUNE 4, 1996
DISC ONE
01. The Motel
02. Look Back In anger
03. The Hearts Filthy Lesson
04. Scary Monsters
05. I Have Not Been To Oxford Town
06. Baby Universal
07. Outside
08. Aladdin Sane
09. Andy Warhol
10. Voyeur of Utter Destruction
11. The Man Who Sold the World
12. A Small Plot Of Land
13. Strangers When We Meet
DISC TWO
01. Diamond Dogs
02. Hallo Spaceboy
03. Breaking Glass
04. We Prick You
05. Jump They Say
06. Lust For Life
07. Teenage Wildlife
08. Under Pressure
09. Heroes
10. White Light White Heat
11. Moonage Daydream
12. All The Young Dudes